【復興釜石新聞連載コラム】#3私が好きな「さかなのまち」~「よそ者」視点、伝えたい海の魅力~

※こちらのコラムは2016年8月3日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。

 こんにちは!釜援隊の下川と申します。協働先はNPO法人釜石東部漁協管内復興市民会議(通称:おはこざき市民会議)です。コラムを書くのは初めてなので、上手くお伝えできるかわかりませんが、3年間の活動を通して感じた箱崎半島の魅力をお伝えできたらと思います。

銀行員時代の被災体験
 東日本大震災から半年ほどたった2011年の秋に、私の故郷である三重県南部をすさまじい台風が襲いました。川は氾濫し、そこかしこに泥まみれの車が積みあげられ、住民を助けに向かった消防車が田んぼにめり込んでいました。私の家もしばらく断水し、くみ水で体を洗いながら生活したのを覚えています。当時銀行に勤めていた私は、被害の深刻さを金額でも目の当たりにしました。

 故郷が災害に見舞われたことで、東北の状況も「テレビの向こうのこと」ではなく、「現実に起こっていること」と感じるようになりました。「自分にも何かできないか」と考えていたとき、釜援隊の立ち上げを知り、縁あってメンバーになることを決めました。2013年の春、私は24歳でした。

釜石で広がる世界観
 釜石に来てからは、驚きの連続でした。厳しい冬、生々しい震災の爪痕…。それ以上に感銘を受けたのは、「もう一度『まち』を創るんだ、負げねぞ!」という釜石の皆さんの力強い姿でした。

 おはこざき市民会議の皆さんをはじめ、箱崎半島の皆さんからは、海の世界の素晴らしさを教わりました。言葉では言い表せないほど美しい景色、これまで肉に偏りがちだった味覚がはっと目覚めるほどにおいしい海産物。そして、言葉は豪快で厳しくても、根っこはどこまでも優しい漁師さんたち。その気風(きっぷ)のよさに、人としての大きさに憧れました。

おはこざき市民会議での活動
 この素晴らしい世界を多くの人に知ってもらおうと、おはこざき市民会議では「漁業の学舎(うみのがっこう)」という漁業体験ツアーを実施しております。ワカメの塩蔵、ウニの殻むき作業、大型定置網漁などを体験していただくことにより、まずは漁師さんの仕事を知り、興味を持っていただくための取り組みです。

 いつもスタッフとして参加する私は、毎回幸せな気持ちでツアーを終えます。体験者が必ずとびきりの笑顔で帰るので、その度に「自分の大好きな箱崎半島の魅力を共有できた」と実感するからです。

 体験ツアーの取り組みを通じて、釜石市内に住んでいても箱崎半島に来たことがない方が、少なくないということに気づきました。そういう方にとっても、体験ツアーは、魅力的な海の世界を知る大変素敵な機会を提供できるのではないかと思っています。

4年目の決意
 釜石に来るきっかけとなった「自分にも何かできるのでは」という気持ち、その「何か」に対する答えの一つとして、4年目の夏を迎えた今思うことがあります。それは、ヨソから来た者だからこそ一層、鮮烈に感じた海の魅力を多くの人と共有することです。

 私は、釜石市が掲げる「さかなのまち」というコンセプトが好きです。「さかなのまち」の定義は難しいですが、漁獲高が多いこと、魚の加工場が多いことだけでなく、そこに住む方たち自身が『うちの海と魚は最高だよ!』と叫べるほど、自分たちのまちの魅力を知っていることが一番大事だと思っています。
 まちに魚の文化を楽しむ場が増え、箱崎半島部を行き来する人が増える。そんな活力に満ちた「さかなのまち・釜石」の実現をお手伝いしたい。そのためにも、引き続き箱崎半島、そして釜石の皆さんから多くのことを学びたい、と思っています。
 
■広報・佐野が見る「さかなのまち」
 「『漁業の後継者』って、誰が一番必要としているんだろうね?」いつも誰より明るい下川隊員が、真面目な顔で私に言いました。行政・NPO・漁師の皆さんをつなぐ立場で、よく考えるのだそうです。色々な取り組みが行われるなかで、下川隊員は「自分が当事者と思う人と増やしたい」と話します。

 下川隊員の紹介で、私も漁業体験に5回参加しました。その度に、船上の漁師さんたちの格好良さに惹(ひ)かれ、とれたての海産物がいかにおいしいかを参加者同士で語り合いました。招待した市外の友人は、皆「釜石のファンになった」と言います。しかし、「参加者の笑顔」だけでは、おはこざき市民会議が目指す「漁業を通じた復興まちづくり」には少し足りないようです。

 理事長の柏崎龍太郎さんは、「市外に出ていった人が釜石に戻り、漁業を継ぐ人が次々に現れ、漁師の家族がまちに増える。そんな日を、私は夢見ています」と語ります。そのためにも「まずは魚を中心とした文化が地域に根差さなければならない」と、後継者育成、観光、水産業の六次化、防災教育、まちづくりの5事業を推進しています。

 「『自分のまちが好きだ』と言う人が増え、人が循環する。まちに血が通う。そうなってこそ、漁業の担い手も呼べるんじゃないか」と話す下川隊員。

 それぞれの思いを胸に、おはこざき市民会議と下川隊員の挑戦は続きます。

下川翔太(第一期/NPO法人釜石東部漁協管内復興市民会議)

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