江口晋太郎といいます。今ご紹介にありましたように、「日本のシビックエコノミー」という本を昨年(2016年)書かせていただきました。今日はその本の中身を踏まえながら「持続可能な地域の在り方」に重点を置いてお話ししたいと思います。
■エコノミーの前提は「まちへの愛着」
シビックエコノミーとは、「シビック」と「エコノミー」という二つの言葉で成り立っています。「シビック」とは、例えば「市民の」とか「地域の」とかいう日本語が紐づきますよね。
分かりやすい事例でいえば、イギリスのバーミンガムで行われたシティプロモーションのキャンペーンです。
Your are Your city” というキャッチコピーで進められたまちの美化運動で、とても有名なのでご存じの方もいるかもしれませんね。
この背景には、ひとつはヨーロッパが財政難になっていたこと。そして、EUが生まれたことで市民がより自由に移動できることになったり、IT技術が発達したことでどこでも仕事できるようになったり、自分が住んでいるまち、隣人との付き合い方が希薄化してきたことへの杞憂がありました。
そうした2000年代のヨーロッパでは 「まちへのアイデンティティをしっかり作らないといけない」という意識が強まり、「シビックプライド」という言葉が生まれました。これは、自分の都市やまちに対する愛着のようなものです。
日本語の「郷土愛」と違うのは、そこに”今”住んでいなくても、そのまちへの「シビックプライド」を持てるということです。
例えば僕は九州の出身で、普段は東京にいて、釜石には何度か訪れただけです。それでも、釜石で食べた料理がおいしかった、こういう人によくしてもらった、こんな建物がよかった、と思えば、僕と釜石との関係性が構築されているということになります。「釜石こんないいところだったよ」と友達にシェアすれば、それも釜石の魅力を広げる活動となり、それも含めて「シビックプライド」が生まれているとみることができます。
住んでいなくても、自分が関係する色々な地域やまちとの間で育まれるのが「シビックプライド」なのです。
その「シビックプライド」をつくるための活動については…参考図書にまとまっているのでそちらを参照してほしいのですが、都市とのコミュニケーションという切り口が重要です。
日本でも地方PRの動画をつくるなどキャンペーンがよくありますよね。その目的を「なんとなく面白くて、見てもらえればいいじゃん」で終わらせずに
その動画を見た人、かつてまちに関わった人が、そのまちへの愛着をさらに持てるような施策になっているのか、というところまで考える必要があります。
ここに(スライド)9個の図がありますが、これらをうまく組み合わせながらシビックプライドをつくります。
そうして、シビックエコノミーを作るためには、その前にどのようにシビックプライド(=まちへの愛着)をつくるか、ということが大切になります。
■「公開と開放」は、ボトムアップ型のまちづくりを促す
釜石市では「オープンシティ戦略」を掲げていますね。昨今の日本でも、もっと行政が(情報を)開いていかないといけないといって「オープンデータ」等の言葉が使われるようになりました。
この「オープン」の意味について、少し考えてみます。
一つは「公開」ですね。情報を公に開き、透明性を高める。
もう一つは、「開放」です。例えば、公園を開放する。それはつまり、公園の使い方を限定するのではなく、そこにいる人たちに委ねるということです。
それは自由な原っぱのような状態ですので、そこに参加する人同士で新しいコラボレーションを促し、イノベーションに紐づいてくるのです。
持続的なまちづくりにおいても「この仕組みに従いなさい」というトップダウンではなく、「こういう仕組みを作ったけど、あと何をするかは皆に任せるよ。一緒に考えましょう」というボトムアップの考え方が必要です。
釜石のオープンシティ戦略もおそらくそういう理念なのではないかな、と思っています。
■エコノミーとは共同体の在り方の模索
この「ボトムアップで、一人ひとりができることを探し、活動していく」というのが、まさにこの「エコノミー」という言葉の本義的なものなんですね。
エコノミーの語源はギリシャ語で、「オイコノミア」といいます。そしてそれは、そもそも「共同体(の在り方)」という意味なのです。
税制や法律、政治というのも、地域が共同体としていかに円滑に、豊かにあるべきかを探す過程で生まれたもの。つまり、エコノミーの根本とは「共同体=我々という意識のなかで、そのコミュニティがどうあるべきなのか考える」ことなのです。
皆さんがよくエコノミーで想像するところの「貨幣」というのも、人と人がやりとりをする媒体として生まれたものです。高度経済成長のなかで、貨幣をたくさん持つことに意味がある、大量消費によってたくさん貨幣をもつこと、市場経済が発展することに価値があるという意識になりました。しかし、お金ががたくさんあったからといって、我々が本当に幸せになるのでしょうか?
本義的にはエコノミーとは「共同体」ですから、場合によっては貨幣がなくてもなりたつかもしれません。
もちろん貨幣があることに意味はあるのですが、それはあくまで手段の一つであって、本当に共同体に向き合った使い方であるか?ということを考える必要がある、ということです。
そのような本質に立ち返ったとき、シビックエコノミーとは「我々一人ひとりが地域やまちといった共同体のためにできる、オープンな取り組み、活動そのものである」とまとめることができます。
それは、「こうしたらもっとまちが、地域がよくなるかもしれない」という想いの循環、「エネルギーの循環」ともいえます。
循環というのはある種、螺旋(らせん)のようなものです。戻ってきたらまた少し上にあがっているということ。これがビジネスとエコノミーの違いと言えます。
ビジネスはOne to oneなので、例えば100円を渡して、珈琲を売ってもらう、で関係性は終わってしまいます。
一方、エコノミーでは「共同体の在り方」に着目し行動します。例えば僕が山田さんにお土産をもっていったとき、それよりちょっと多いものが返ってくる。そうすると、また山田さんに返すとき、ちょっと多いもので返すようになる。
ちょっと多くもらったことで、「返さなきゃ」という関係性ができて、共同体が円滑に進む。 それが、他者との関係性を円滑するために、昔ながら続けてこられた一つの「エコノミー」なんですね。
■「他人を応援する」もエコノミー
「エコノミー」をつくるにあたっては、3つのポイントがあります。
①まずは、自分が主体的にかかわる(自ら起業するなど)
②それから、他人が主体的にかかわるのを応援する
③そして、他人を主体的にすることに関わる。
釜援隊がやっているのも、この二つ目や三つ目のような他者をEmpowermentすること、コミュニティの能力を引き出しながらFacilitateすることと言えます。
まちづくりに関わることだけでなく、関わる人を応援することもエコノミーに関係することで、 本来はこれらが行政や支援団体にも求められているのでしょう。
その活動の度合を図る指標は4つ(①経済的指標、②情緒的指標、③社会的指標、④能力的指標)あり、これらがどのような状態であるのか、バランスよく満たされているかを確認します。これは釜石のみでなく、これから色々な地域でのまちづくりに活用されうる指標だと思っております。
■”開発(かいほつ)”すべきは、ハコモノではなくココロ
参考図書として、井上ひさしさんの「吉里吉里人」を紹介します。
ここに出てくる人たちこそ「シビックエコノミー」をしているんですね。いわゆるホームナース制という、ちょっと具合悪いときに地域の誰かが見守ってくれるような仕組みが登場します。
病院のような建物がなくても、医療知識を持った他者の(見守りの)視点があるというものです。
これはフィクションですが、こういう取り組みが今まさに地域でも必要とされているんじゃないでしょうか。
最後に、工業デザイナー秋岡芳夫さんという方の言葉も紹介します。
ものづくりにおいて大量生産・大量消費というものが目指されがちな中で、秋岡さんは「作り手100人がいたら、その周辺に使い手1000人がいることを意識すれば、彼らが顔見知りになることによって”良いものをつくろう”と意識され、新しい経済が生まれ、持続可能なまちが生まれてくる」と説いています。
1年で壊れるような安いものではなく、長く使え、地域の風土を高めるような地域にとって良いものをつくるということです。
場所によってとれる資源も天候も違うのだから、つくるモノ自体も違ってきます。その土地の風土を活かせば、自然と多様性が生まれてくる。
そのなかで作り手と使い手が共存していくのが、新しいエコノミーすなわち共同体の在り方だということではないでしょうか。
今、都市でも地方でも「開発しよう」といわれています。これは建物やハードのことと考えられがちですが、内面をしっかり建てていくべきではないかと思うのです。
この「開発」という言葉は、もとをただせば「かいほつ」という仏教の言葉で、人と人がまじりあうことで、自分自身に気づきが与えられるということを意味します。
互いが自分の潜在能力に気づくこと。地域においても、開発とはまちの潜在能力に気づくこと、そこに住む人たちのやる気をどう引き出すかということにつながってくるんじゃないか。そのまちにいる人たちを、どう育てていくかということが、開発の本義なのではないかと思います。
そこにおいて、持続可能なまちづくりのために一人ひとりが何が出来るのかということを考え経済圏が動くのが、「シビックエコノミー」ではないかと考えています。
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Speaker:江口晋太朗(えぐち・しんたろう)
₋TOKYObeta. Ltd 代表
編集者、ジャーナリスト。1984年生まれ。福岡県出身。都市政策や地域再生、事業開発のコンセプト設計、研究リサーチに取り組むTOKYObeta Ltd.代表。NPO法人インビジブルのコミュニケーションディレクター、NPO法人マチノコト理事、NPO法人日本独立作家同盟理事などを務める。著書『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)『ICTことば辞典』(三省堂)『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』(ミニッツブック)など。
▽http://civic-economy.impacthubkyoto.net/shimuta/
▽http://yulily100.hatenablog.jp/entry/2016/04/21/103432