【復興釜石新聞連載】#35 官民協働 新たな局面 マチの思い映す景観とは

※こちらの記事は2018年7月4日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです

新たなフェーズに入った。夜の小さな会議室で、仕事終わりの事業者たち、市商業観光課と釜援隊員は話し合っていた。議題は復興事業が進む市街地の歩道の柄。濃淡のグレーのブロックをどう配置するか。代表者たちは、事前に行われた分科会で各地域の事業者たちから集めた意見を報告した。
会議の終わりに佐々木護さん(市商業観光課)は言った。「皆さんにも動いていただき感謝です。引き続き、一緒にまちの景観整備を考えていきましょう」佐々木さんの声に事業者たちはうなずいた。
東日本大震災後に東部地区の2つの商店街が解散し、一番当惑したのは行政であったかもしれない。まちの復旧事業を進める際に、地域の事業者の声を集約する組織がなかったのである。
市商工労政課(当時)は被災した事業者を個別に訪れた。しかし、状況の異なる事業者にあまねく寄り添い、声を吸い上げる難しさも痛感したという。
せめて商店街組織が再編され事業者の総意が形成されれば…と、市も事業者も手を尽くした。2015年春には、市と大町商店街振興組合の意見交換会を経て大町商店街区域の拡大を検討開始。2017年には専門機関の協力を得て取り組んだが、商店街振興組合法の要件に合わず、市は商店街の区域拡大を認可出来なかった。
「要望がまた叶わなかった」落胆する事業者の声を聞き、行政と事業者の間には埋まらない溝があると思った、と市の関係者は振り返る。
東部地区では一方で、事業者同士の連携の機運が高まっていた。ミュージックフェスタの運営などで事業者と協働していた二宮隊員と花坂隊員は、ラグビーワールドカップ2019™に向け自らまちづくりに関わりたいと思う事業者が増えている、と佐々木さんに伝えた。「まずは市街地の環境整備で、事業者と市が話し合いながらまちづくり を進める仕組みをつくれないか」
釜援隊の提案を受けた市商業観光課は復興推進本部都市整備推進室と協議し、事業者の意見を反映できる要件を検討。住民主体のまちづくりを進めるきっかけに――目的を伝え、佐々木さんらは庁内の調整をはかった。そうして2017年7月、事業者の意見を踏まえ決定すると合意されたのが歩道の舗装パターンであった。

意見交換会の開催が決まると、花坂隊員は地域の事業者たちを訪れ参加を呼び掛けた。分科会に続き行われた代表者会議で、参加者からあがったのは「市は事業者の意見を聞いてこなかった。今更、話し合いの場を設けても遅い」との声。二宮隊員は「市だけでは担えない環境整備もあるのが現実だ。それらをどうするか、これから共に考えいくきっかけなのだ。この機会を最大限にいかしてほしい」と理解を仰いだ。
数回の会議を経て、東部地区の歩道の舗装色は決まった。同時に、議題は市街地に不足する街灯の設置問題へと移行。 事業者から市への要望の場は、いつしか両者の役割分担の場へと変わっていった。
ようやく、協働が始まる。代表者会議に集まる事業者に残った手ごたえを佐々木さんも感じたという。市街地復興事業が始まり 、7年目のことだった。

(釜援隊広報・佐野利恵)

■「声」佐々木護さん(42)市商業観光課 

中心市街地の担当についたのは2011年の10月。はじめのころは、一日でも早くハードの整備を進めなければ、と必死でした。ソフト面まで考える余力は、正直なところ、当時は無かったかもしれません。建物の造成や個店の再建が進むうちに「これをいかしてどう賑わいを取り戻すか」と考えるようになりました。
事業者の皆さんと話すなかで、二宮さんや花坂さんには非常に助けられています。我々行政では言いにくいところまで事業者に伝えてくれるのが二宮さん。要望を叶えるためには地域にもある程度の費用負担が発生する。そういう現実的な話をしてくれます。市側に問われるのは「事業者の皆さんに一度やると約束したことは決してぶれないでくださいね」という覚悟。官民の間にきっちりと立ち、着実に取り組みを進めてくれる貴重な存在です。
花坂さんが事業者を一軒ずつ回り、会議への参加を呼びかけ てくれたのも大きいですね。本当はそういうことが一番必要なのかもしれませんが、そう思いながらも動けないことがこれまでの行政には多くありました。今は、事業者の皆さんに「今後はちゃんと話合いで決めることができるのだ」と、感じてもらえていると信じています。
東部地区を小さい頃から見てきました。通った学校もあります。どうしたらここにもう一度人が戻ってくるか、賑わいをつくれるか、必死で考えてきました。ラグビーワールドカップ2019™の成功はもちろんのこと、その先にある、地域の皆さんが恩恵を被れるようなまちづくりをしたい。そんな気持ちを共有しながら、二宮さん、花坂さん、そして事業者の皆さんと共に、引き続き頑張ります。

 

釜援隊がゆく㉟校正用003

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