※こちらのコラムは2016年10月12日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。
平田地区生活応援センターの間近にある県営平田災害公営住宅は、夜になると暖かなオレンジ色の明かりがともり、華やかな存在感を放っています。しかし、平田地区担当の釜援隊として着任した当初、その中に暮らす方たちから聞かれたのは、「寂しい」「不安」といった、住宅の外見からは想像のつかない悲しい言葉でした。慣れない場所で新たな生活をスタートした住民の皆さんが、安心していきいきと暮らせる地域づくりをお手伝いしたいと思って活動を始め、1年半が経ちます。
地域活動参加のきっかけを
私が釜援隊に入った2015年5月は、災害公営住宅で自治会が立ち上がるところでした。前任の隊員と一緒に全戸を訪問して、自治会設立総会の委任状を集めたのを覚えています。集まった委任状を見ると、若い世代の欠席が目立っていました。自治会が活動を続けるためには、若い人も含めより多くの方々の協力が必要です。住民の皆さんの、自治会への興味関心を引き出す取り組みが必要だと感じました。
その後、子どもや若い世代が楽しく地域活動に参加できるきっかけを作りたいと、文部科学省の制度を用いて釜石市教育委員会と放課後子ども教室「平田MOSICA」を開きました。「MOSICA」では災害公営住宅内の集会所を、子ども達が自由に遊べる場所として開放しています。支援団体や住民さんも一緒に運営しており、毎週およそ20名の子供たちがやって来ます。
季節毎のイベントも開催し、異世代交流の工夫を心がけてきました。保護者には知り合いが増えることで地域活動に参加しやすくなってほしい、高齢者には子どもと接することで生活に楽しみや生きがいを持ってほしい、という願いがあります。
「地域交流祭」の成功
自治会でも、時節に応じて住民交流行事を開催しています。今年の8月には自治会主催で「地域交流祭」という夏祭りが行われました。周辺地域のことを災害公営住宅の皆さんに知ってもらうため、大平中学校のソーラン節や青虎会の虎舞も披露してもらいました。お祭りの当日は子どもや保護者、災害公営住宅や仮設住宅に住む高齢者といった、世代も住環境も異なる方がたくさん集まりました。提灯の優しい光に照らされながら、様々な方が楽しそうに同じ時間を過ごしている光景に、胸が温かくなりました。
「見守りあえる関係」をつくる
私が「MOSICA」や自治会の行事などをお手伝いしながらいつも目指しているのは、より多くの方をおつなぎし、子供からお年寄りまで、同じ地域で暮らす人たちが互いに見守りあえる関係を構築することです。地域で顔見知りが増えるということは、その分「見守りの目」が増えることだと思います。夕方ひとりで遊ぶ子どもを見かけたとき、道端で具合が悪そうにしている高齢者を見かけたとき、名前を呼んで気にかけてあげられる人がいれば、一人一人が安心して過ごせる地域になると思います。そしてその土台は、少しずつですが着々と出来ているように感じています。
期限付きの「復興支援員」として
「娘みたいなもんだ」、「おらほの嫁さん」と言って優しく受け入れてくれる住民の皆さんと共に、様々な活動に取り組んできました。平田地域を良くしたいという同じ目的を持ち、本音で話しあえる関係のもと活動させていただいていることを、とてもありがたく思っています。いつまでもご一緒させていただきたいのですが、復興支援員である釜援隊が活動できる期間は限られています。ですから地域の方々が「いつまでも釜援隊に頼っていないで、自分たちも行動していかないと」と、これまで以上に積極的に活動に取り組んでくださる姿を見るたび、とても頼もしく、嬉しく思います。
■広報・佐野が見る「心やすまる暮らし」
平田地区災害公営住宅では、入居者の約4割が60歳以上となっています。慣れないアパート生活では、部屋の壁が一層厚く感じられることもあるのでしょう。「鉄の扉に閉じ込められているようだ」と話す方も居ると聞いて、胸がつまりました。
一方で、遠藤隊員と一緒に自治会の活動をしてこられた方々は、災害公営住宅を「一つの家」と呼んでいました。そこで暮らす人たちを「一つ屋根の下に住む家族」と思い、つながりを増やそうと励まれているそうです。
自治会長の小林徳夫さんは、自治会の取り組みや地域行事の企画を積極的に進めてきました。「表に出てくれば、気持ちも明るくなるから」という小林さんの声掛けによって、自治会活動に顔を出すようになった人も多いようです。
自治会会計の傍ら「MOSICA」のスタッフも務める小野寺民子さんは、「家の玄関ですから」と災害公営住宅の入口を綺麗にするよう気にかけていると話します。「心に残る悲しみは消せなくても、隣の人の顔が見えると安心できるじゃないですか」とすれ違う人に挨拶し、交流会では幅広い年代の方が楽しめる内容を考えておられました。
「共同生活をしているという意識を、特に若い人たちに引き継いでほしい」というお二人の言葉にうなずきながら、自分の故郷やこれから暮らす地域にも、互いに見守りあえる関係があって欲しいと思います。
インタビューを行った集会所は、災害公営住宅の裏側にあります。木曜日の夕暮れには「MOSICA」にやってきた子供たちの笑い声が響き、温かな光が窓からこぼれていました。
遠藤眞世(第四期/平田地区生活応援センター)