【復興釜石新聞連載コラム】#8若者迎えるまちづくり~六次産業化で耕す、「共栄」の土壌~

※こちらのコラムは2016年10月26日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。 
 
 釜石に来て、3年半が経ちました。私にとって以前は「見知らぬまち」だった釜石が、今では故郷の大阪や前職の勤め先があった東京よりも、住んでいる人の顔が思い浮かぶまちとなっています。
 はじめは「自分に何ができるのか」という不安もありました。同僚と二人で「来たからにはやるしかない」という覚悟を話した日のことを、今でも覚えています。まずは、震災後に休止していた「釜石よいさ」の復活に向けた事務局運営に加わるなど、地域の活動にご一緒させていただくことで、次第に信頼関係ができていったように思います。

釜石六次化研究会との協働
 私は一期生として、組織の環境整備や他の隊員のバックアップを行うマネジメント業務と、水産業の六次産業化支援を担当してきました。特に協働させていただいたのは、「釜石六次化研究会」です。六次産業化とは、魚などの資源を捕る、加工する、売るという過程を地域内で行います。釜石市でも、これからは事業者が協力して釜石の水産業を発展させたいと、2012年に市内の経営者5名が研究会を立ち上げました。
 私が協働を始めた2013年は、研究会の事業内容を取りまとめる段階でした。メンバーは本業の合間を縫って話し合いを重ねており、私も会議の効率をあげる工夫や、事業に使える情報収集などのサポートを行いました。
 これまで市外で行っていた加工・販売作業を市内で行い、未利用資材を活用することで、地域に還元される利益を増やすことができます。研究会が六次産業化のメリットを示せれば、ゆくゆくは水産業のみならず、他の食関連産業・観光産業なども連携する土壌(どじょう)をつくることもできます。こうしたビジョンに基づいた企画書を飲料メーカー・キリン社に提出したところ、支援を受けることが決定しました。その後2年間の試行錯誤を経て開発・販売されたのが、海鮮中華まんじゅう「釜石・海まん」です。
今後更に活動を発展させ、地域に広げていくために、メンバーは研究会を法人化して2015年に「KAMAROQ(株)」を設立しました。

地域貢献を目指す若者たち
 研究会の活動が「地域貢献を目的とした新しいビジネス」として紹介されると、市外に住む多くの大学生が関心を持ち、釜援隊や研究会のインターン活動に参加してくれるようになりました。その中には、釜石や大槌出身の人もいます。
 釜石には専門学校や大学がないため、高校卒業と同時に市外に出る学生が多いと聞きます。しかし活動に参加した学生に話を聞くと、彼らは「いつか故郷に貢献するために、力をつけるにはどうすればいいか」と考えているそうです。

迎えてくれる人がいる
 そして釜石には、このような若者が、チャレンジできる機会を与えてくれる風土があると感じてきました。その理由はさまざまだと思いますが、一つには、「一緒に頑張ろう」と言ってくださる人や、「一緒に活動させていただきたい」と思う志の高い人が、多くいらっしゃるからだと思っています。
 「帰ってきたい」「このまちで働きたい」と願っている若者を迎えてあげられる、優しいまちであり続けてほしい。そのためにも、人と人がつながり、協力しあえる環境づくりに引き続き励みたいと思います。

■広報佐野が見る「共栄の土壌」
 「海まん」のレシピは、連携する事業者間で全て共有されています。釜石六次化研究会会長の宮崎洋之さんは、「釜石のような小さなまちでは、競合するのではなく、同じ目的に向かって協力する姿勢が大切だ」と、通常は企業秘密となる情報も開示していることを教えてくださいました。
 海外経験を積まれてきた宮崎さんは、このような「助け合い」の精神は、日本人の大切なアイデンティティだと話します。そして、自然災害や資源不足といった問題が世界的に増えるこれからの時代では、「自他共栄」のビジネスが主流になるのではないか、と感じるのだそうです。「『公益のために、自分の経験やスキルを活かす仕事』が、当たり前になる日がくると思う。釜援隊は、その先駆けだ」との言葉に、私も強く励まされました。
 宮崎さんをはじめとする釜石の方々に惹(ひ)かれ、まちづくり活動に参加してきた学生の一人が武田真帆さんです。市内出身の武田さんは、県内の大学で地域社会学を学びながら、休暇中は釜石へ戻り「釜石よいさ」の運営や「海まん」の情報発信などをお手伝いしてきました。
武田さんにとって釜石は、「家族以外にも『おかえり』と迎えてくれる人がたくさんいる、大好きな場所」だと話します。震災によってまちの様子が変わっても、その「温かさ」は変わらないからこそ、釜石のために貢献したいと思うのだそうです。
 中村隊員も、受け入れてくださる方々がいたからこそ、六次産業化支援のような新しい取り組みを続けられたと話します。若者が活動できる場を増やすだけでなく、彼らに応援の言葉をかけることも、まちづくり活動の大切な一つなのかもしれません。

中村博充(第一期/釜石六次化研究会)

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