【復興釜石新聞連載コラム】#10 祈りと共に、歩む~過去と未来をつなぐ旅~

 ※こちらのコラムは2016年11月30日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。

 2011年3月、当時北上市で生活していた私は、東日本大震災が発生した翌日に家族の安否確認の為に釜石市を訪れました。家族と共に必死で生き抜いたあの十日間のことを、今でも鮮明に覚えています。
 そして発災から1週間後の3月18日、サイレンと共に黙祷を捧げました。あの時から、犠牲となられた方々の御霊の安らかなることを、祈り続けています。 
 
郷里で観る光
 2015年2月、私は「故郷の復興に関わりたい」という願望を果たすべく、釜援隊の第四期採用に志願しました。そして3月20日のこと、「採用」の通知を頂いた時の喜びは今でも忘れられません。
 それから一年半、私は観光産業の活性化の為、釜石市観光交流課と協働させていただいております。主な担当業務は観光交流課が事務局となって運営しているグリーン・ツーリズム事業(A&Fグリーン・ツーリズム実行委員会)です。
 グリーン・ツーリズムとは、地域の「日常」を、市外の方には「特別」な体験として提供する観光の形です。例えば、漁師の方のサッパ船に乗せてもらい、養殖棚の見学をして、とれたてのホタテを味わう漁業体験や、農家のお宅で暮らしと交流を楽しむ民泊体験など。地域の文化やそこに暮らす人をとても大切にする考え方に基づいています。
 釜石市は、東日本大震災からの復興という大変な局面に立たされています。そしてこれからのまちづくりで、経済や地域コミュニティの活性化への原動力として観光振興は欠かせません。ゆえに、非常にやりがいのある仕事です。

「命」を尊ぶツーリズム
 「グリーン・ツーリズム」という言葉は、ともすれば「自然体験」や「田舎暮らし」のようなイメージに囚われがちです。しかし、その概念が作られたヨーロッパの書籍によると、本来は「生命の尊重」など、より高次な意味を含んでいるそうです。
 今年の10月、東京都渋谷区の高校生約100人が、一泊二日の教育旅行として釜石を訪れました。私は、旅行会社の方と共に、その企画を精一杯お手伝いしました。
はじめに担当者から渡された企画書には、こう書いてありました。
 「災害によって日本社会の抱えるさまざまな課題が顕著になったと言われる被災地にて、地域内外の人々が地域の課題の解決に向けて取り組む姿から、社会課題の解決を担うことの意義や醍醐味を知る。」
 そこで述べられている「被災地」の姿には、失われた命にいかに向き合うか、生かされた命の責任をいかに果たすか、未来の命をいかに守ろうとするか…そういう思いが幾重にも重なり体現されています。それは、私が釜石で観光を通して伝えていきたい大事な価値を代弁している一文であると思いました。
 現在、市内では、帰郷者や移住者を中心にグリーン・ツーリズム型の観光に取り組む団体が増えております。その方々の思いの根底にも、近しい価値観があると感じることがあります。そうした方々をつないでいくことも、釜援隊としての私の役目です。

この地で生き続ける者として
 私たちが東日本大震災によって得た悲しみや苦しみ、慈しみ、悼み、決意、忍耐、覚悟、それらによって支えられている釜石の「日常」を、社会に対して「特別」な知見として、観光の手法を以って発信する仕組みの構築に挑戦しつづけること。
 それが、私に釜石で生きる道を与えてくれた全ての命への恩返しです。

■広報・佐野が観る「光」
 橋野町にお住まいの小笠原英治さん・良子さん夫妻は、市外から民泊体験に訪れる多くの若者を迎えてきました。良子さんは若者を「お客さん」ではなく「家族」として迎えようと心がけ、夜は一緒に夕飯づくりを手伝ってもらい、人生相談に乗ることも。そうして一晩もたてば、若者は英治さんを「お父さん」、良子さんを「お母さん」と呼び、帰ったあとも季節ごとに連絡をくれるのだと話してくださいました。
 別の民泊受け入れ家庭も、国内外から訪れた人たちとの思い出で溢れていました。住む場所も、年代も異なる人たちとの出会いはご主人の元気の源にもなるようで、「地域のためにもなるのなら、これからも頑張りたい」と語ります。
 市民を含む多くの人が「楽しかった」「やってよかった」と思い、協力しあえてこそ、持続可能な観光になる。そのことを教えてくださったのは、長年熱い思いを持って取り組みを続けてこられた地域の方々です。
釜援隊ではこれまで久保隊員を含め5人が観光振興に携わり、そんな地域の方々が誇りを持って育ててきた観光資源をプログラム化し、市内外の方々に提供するお手伝いをミッションとしてきました。
 釜石の方々との出会いによって、時に価値観が変わり、前に進む力を得てきたのは、ほかならぬ隊員自身でもあります。だからこそ、釜石で人のつながりを増やし「特別なまち」として発信したい。そうして自分たちの背を押して下さった方々の気持ちに報いたい、との信念が磨かれるのだと感じています。

久保竜太(第四期/釜石市観光交流課)

釜援隊がゆく⑩校正用

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