【復興釜石新聞連載コラム】#11 交流つくる、まちの「物語」~「食」を通じた復興への挑戦~

※こちらのコラムは2016年12月14日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。

 2011年3月21日、瓦礫(がれき)が散乱する釜石のまちを歩いていたとき、私は「自分の残りの人生を、このまちのために使いなさい」と言われたように思いました。
 以来、「人の生は、己の能力を使い世を良くするためにある」という司馬遼太郎の作中に現れる言葉を胸に刻み、2016年5月からは釜援隊として活動しています。

「復興への貢献」が人生の命題に
 私は高校卒業と同時に釜石を離れ、関西に移り住みました。大学卒業後は百貨店の食品売り場、いわゆる「デパ地下」のマネージャーとして平穏に働いていましたが、東日本大震災が起こってからは、生活も一変。東北の商品を積極的に販売し、従業員や取引先への情報発信、ボランティアの募集など、当時の自分にできることを何でもやりました。
 しかし、遠方にいることで「自ら釜石へ行き、地元の人たちと一緒に汗をかきたい」という気持ちが徐々に強くなりました。また、復興のステージが「支援」から「自立」へと進み、経済を支える専門知識をもった人材が必要であることを知った結果、そこに自分の経験を役立てられるのではと思い、帰郷することを決意しました。
 
自立し稼ぐまちを目指して
 現在は、「食と観光の発展」をテーマに観光交流課と協働しています。「まちづくりの調整役」という仕事にマニュアルはありませんので迷うこともありますが、私の役割は「食」を通して市外と市内の人、または市内の人同士をつなげることだと考えています。
 例えば、食品に限らず「商品が売れる」ためには、買い手と作り手の「交流」が大切です。どのような人たちが、どのような思いでその商品を作ったのか。宣伝文や対話を通して、パッケージを見ただけではわからない「物語」が伝わってこそ、売り上げは上がります。
 またそのためには、関係者が互いをよく知って信頼関係を育み、「これを伝えたい」という熱意を持つことが大切であることを前職で学びました。
 そのような経験から、今はまず、観光案内所の窓口に座って観光客の需要を調べたり、市が事務局を運営する「食ブランド開発検討協議会」の活動を支援したり、事業者にお話を伺いにいったり、情報収集につとめています。

釜石の強みを知る 
 私は二十年以上釜石を離れていましたので、人脈も情報もありません。そんな私が飛び込みで伺っても、ほとんどの方が快く迎えてくださることに驚きました。お話の内容も機知に富み、時には失敗談も含めざっくばらんにお話をしてくださることも印象に残りました。また釜石には数代続く伝統あるお店が多いのですが、時代に合わせて柔軟に姿勢を変える方が多いという発見もありました。
 こうした「釜石らしさ」は、人々が連携して新しい挑戦をする際に、特に生かせるかもしれません。異なる事業者が協力することで、それまでなかった発想が生まれ、ヒット商品が生まれることはよくあります。そうした商品開発の背景や、「意外な組み合わせ」という驚きは、買い手が喜ぶ「物語」になるからです。
だからこそ、これからは釜石でさまざまな新しい取り組みが増えてほしいと思いますし、私も皆さんがまずは互いを知り、つながるきっかけを増やしていきたいと思っています。
  
まずは「思いを伝える」ことから 
 お話を聞いた市内の事業者の中には、自社の利益ばかりでなく、取引先や従業員のことも考える方もおられました。そこでは周りもその事業者をさまざまな形で応援するといった好循環も生まれています。このような人や商品の「物語」は、特に市内の人たちに知ってほしいと思うものです。
 「食」を通して人々がつながり、まちを活気づける「交流」が増え、経済が循環する。そんな未来に向けて自分ができることを、引き続き探していきます。

■広報佐野が見る「まちの物語」
 若林隊員が協働している「食ブランド開発検討協議会」では、市民・事業者による商品開発を促すために、毎年「おいしい釜石コンテスト」を行っています。今年は、昨年の二倍を超える十九点の応募商品がありました。
その一つが、鵜住居町にある障がい者福祉施設「かまいしワーク・ステーション」の皆さんが開発した「釜石の橋野鉄鉱山クッキー」です。
 市外の洋菓子店などさまざまな専門家が開発や販路開拓に関わり、福祉施設の皆さんが一つ一つ手作りするクッキーは、月に二千枚を超える売上を誇ります。
 主任の山崎将生さんに「成功」の秘訣を尋ねると、「まずは『やりたい』と手をあげること」、そして「具体的な計画を練って、周りに協力をあおぐこと」だと教えてくださいました。「(施設の)利用者さんが、自信を持って社会に出てほしい」との思いも、関係者をつなぐ核となったようです。
 コンテストの「認定品」は、市内各所で配られるパンフレット「おいしい釜石コレクション」に掲載されます。「新しいことができた」という喜びを共有しながら、かまいしワーク・ステーションでは次の商品開発にも取り組んでいるそうです。「そんな釜石の『食』の世界を、多くの人に知ってほしい」と、若林隊員も認定会の準備を進めていました

若林正義(第五期/釜石市観光交流課)

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