※こちらのコラムは2017年1月11日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです。
釜石に移住して4年と2か月が経ちました。少しでも復興の役に立ちたいという一心で訪れたこの地で、市民のみなさまと未来をつくる仕事に取り組めることに心から感謝しています。
釜援隊は多様な生き方の集合体
私は釜援隊発足時の制度設計や以降の採用活動を行い、現在は釜援隊協議会の事務局長を務めています。 2013年4月に発足以来、釜援隊は地域の調整役として復興まちづくりをサポートしてきました。隊員は市から委嘱を受け、個人事業主の立場で市内の様々な地域やテーマにおけるコミュニティ形成を推進しています。ここには「復興の初期段階からコミュニティ形成を最重視する」という新潟県中越沖地震の教訓が生かされています。
釜援隊はチームでありながらも、隊内における指示命令系統はありませんし、地域ニーズと自身のできること・やりたいことをすり合わせていく中で各自の仕事を定義しています。そして、これまで活動してきた述べ24名のうち過半数は、縁もゆかりもない土地に覚悟をもって飛び込んできた人たちです。復興を応援したいという気持ちがベースにありつつも、隊員が釜援隊に参画するモチベーションは「他者の喜ぶ顔が見える仕事がしたい」「東北の教訓を世界に発信したい」などさまざまです。釜援隊とは、多様な個人の生き方の集合体なのです。
「ふるさと」はつくるもの
私は釜石で「自分たちのまちは自分たちでつくる」という意思ある方々にお会いしてきました。2016年3月に市が実施した市民意識調査では、まちづくりへの参画度合いが高い市民ほど、釜石は復興しているという実感を得ていることが分かっています。
また、釜石のことを心から応援して下さるボランティアや企業パートナーの方々がいますが、こうした方々は、地域の課題解決に取り組む釜石市民との関係性を築いていく過程で、釜石を「第二のふるさと」だという思いを重ねています。
釜援隊の歩みは、釜石市オープンシティ戦略の「地域内外のつながりを生かし、多様な主体によってまちづくりを進めていく」という考え方につながっています。地域社会における自分の役割や居場所を実感できる場所を「ふるさと」と表現するのであれば、それは「ある」ものではなく「つくる」ものでもあると言えるでしょう。
個人が支える現代の公共
現代は不確実性の高い時代です。ロボット技術やAIの進化によって雇用が創出・消失され、資金・場所・仕事といった様々な有形・無形資産を共有する「シェアリングエコノミー」の発展により、マニュアル化された仕事や働き方の市場価値が低下する一方で、個々人の生き方そのものによって社会に変化をもたらすことができるようになってきています。
こうした時代の変化は、私たちの地域社会と無関係ではいられません。むしろ、個人一人ひとりが自分の意思によって働き方や暮らし方を定義し、もっと多様な形で地域に関わることができるような社会をつくる。私はその過程にこそ、新しいまちづくりの可能性を見出しており、地域コミュニティ支援から産業振興にまたがる釜援隊員の取り組み一つ一つは、こうした文脈において意義を捉えなおすこともできます。
21世紀に求められる公共性とは、単に与えられるものではなく、行政・企業・市民の協働を通じて、多様な個人の生き方の集合体として 結果的に生まれていくものであり、釜石からその可能性を探求していきたいと思います。
■広報佐野が見る「21世紀の公共性」
2013年の4月、釜石市は市町村単位では県内で初めて復興支援員制度を活用し、釜援隊を発足させました。野田武則市長は、釜援隊を海援隊になぞらえ「新しい時代を切り拓く志士であれ」と激励しています。その背景には、釜石が「日本の近代産業発展を牽引(けんいん)した歴史をもつ」という誇り、そして「これからも地方都市の未来を切り拓く先駆者たるべき」との願いがあるそうです。
では釜石が「先駆けている」のは、どのようなところでしょうか。さまざまな答えがあるなかで、野田市長、そして釜援隊が協働してきた方の多くは共通して「人任せにしない」精神の大切さを教えてくださっています。例えば自然災害などの「危機」に直面したとき、自分で積極的に情報を集め、自らの意思で判断し、行動する。まちづくりにおいては、産業の衰退や地域の高齢化・過疎化など、さまざまな場面で「危機」が生じているともいえます。釜援隊員は、市民が抱えてきたこうした課題感、不安感を、まずは言葉にしてもらい、誰かと共有し、一緒に対応策を講じるための黒衣(くろこ)役を担ってきました。そうして、まずは自分に出来ることから「互助・共助に参画する」ことが「人任せ」の対義語になるのかもしれない、との学びを私も得てきました。
自分のためにとった行動が、他者の課題解決にもつながる。そうして支えられる「ふるさと」は、これからの時代で一層輝いて見えると実感しています。
石井重成(釜援隊協議会事務局長/釜石市総合政策課オープンシティ推進室)