【復興釜石新聞連載】#33 支援続く仕組み実現 森づくりに「外部」の知見

※こちらの記事は2018年3月14日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです

 地域の復興を牽引(けんいん)している団体として、釜石地方森林組合を安倍晋三首相が視察したのは2017年12月のこと。前月には、森林組合は農林水産省が選ぶ「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」の全国優良事例として選定されました。約850件の応募から選ばれた31件のうち、林業に特化する団体は当組合のみ。釜石・大槌バークレイズ林業スクールや木材流通協議会、森林体験の運営、六次化商品開発。市内外の人が協働し、 地域の可能性を広げる姿勢が評価されたのです。
 
 「外部の知見を活かした組織運営・森づくり」とは、2014年秋の活動開始時に手塚隊員が掲げた活動目標です。前職の新聞記者としての経験や、移住者ならではの視点をいかしたい、という気持ちがその発端。森林組合の高橋参事も「林業の枠にとらわれない異業種との交流が組合職員の意識向上につながる」と考え、手塚隊員の方針に同意しました。
 一方、東日本大震災の風化が進むにつれ森林組合への支援や関心が減少すると案じた手塚隊員は、これまでの外部支援者が引き続き釜石の森と関わり続けられるにはどうしたらいいか、と考えていました。着目したのは、遠方から継続的に支援に訪れていた企業ボランティアと、被災や高齢化によって森林の整備の資金不足に苦しむ山林所有者たち。両者のニーズを考慮し 、企業が山林所有者の植樹や下草刈りなどの年間作業を担う仕組みを設けてはどうか。自分がその調整役になる、と手塚隊員が提案すると、高橋参事は「手塚さんならではの新鮮な発想だ」と背中を押し、ともに関係者との交渉に向かいました。
 
 以来、箱崎半島の森林の一部はこの枠組みに参加した千代田化工グループが整備しています。通称「千代田の森」。同社が費用を負担し社員がボランティア活動をする現場です。震災以降、山林経営を諦めていたという山林所有者からは、社員との交流を通じ「山をもう一度作っていく力が湧いた」と嬉しい声が寄せられ ました。
 さらに手塚隊員は、釜石を訪れた視察者や観光客向けのお土産品開発にも着手。 釜石・大槌産の杉を使い、地域企業が製作する六次化商品として、木製の枡やキーホルダーなどを開発しました。 加工費が地域企業に還元されるほか、売上の一部は植樹の際の苗木代に充てる仕組みは高橋参事の発案です。
 釜石の木材と鉄の加工技術を組み合わせた木製家具「mori-to-tetsu(森と鉄)」は、森林組合を視察した安倍首相に紹介され話題に。「地域以外からやってきた人と知恵を出し合いながら、新しい生業(なりわい)の芽を伸ばしていきたいという意欲を感じる」被災地復興・日本経済の再生に不可欠な要素として、林業振興に力を入れたいと安倍首相は語りました。

 森林組合の広報担当として情報発信も強化してきた手塚隊員。いつでも問い合わせに対応できるよう、PRエピソードや事業目的、年度ごとの取り組み実績をまとめた資料を用意しています。「林業スクール受講者、252人・131人・150人」「森林体験プログラム参加者、435人・474人・206人」――記された人数は手塚隊員がつないできた森林組合の応援者の数でもありました。
(釜援隊広報・佐野利恵)

■「声」植田收さん(69)釜石地方森林組合理事

 私の家には先祖から引き継いだ山の木を使っている。津波でがれきに埋もれ天井も壊れたが、数年をかけて修理した。祖父が育てた木を使った家を壊すことはできなかった。
 山林は有事の際の「保険」になる。震災時には持ち山の木を売って自宅再建の費用を工面した人も多かったと聞く。
しかし、昔に比べて木材価格はずいぶんと下がった。手をかければ太い幹の木が育つとか、広葉樹を一部残せば栄養豊富な水がうまれるとか、祖父が私に教えてくれたようなことに価値を見出す人は多くない。
 かくいう私も、山林の後継者を育てられなかった。七十近い自分がこれから苗木を買い、十年かけて保育間伐して…と考えると二の足を踏んでしまう。震災後は資金難も重なり、もう再造林を止めよう、と思っていた。そんな時に声をかけてくれたのが高橋参事だった。
 スギ一辺倒ではなく針葉樹に広葉樹を混ぜて植林するという新しい方法を提案しながら、ボランティアが山づくりを手伝うから、もう一度山をつくってみないか、と。それも単発ではなく、継続的に来てくれるというので、やってみようか、という気持ちになった。
 「千代田の森」が育てば、交流の場がまた増えるかもしれない。都会の人たちの憩いの場として使ってもらえたら嬉しいし、植林のやりがいも出てくる。ボランティアのなかには、「人生の節目には自分が植えた木を見に釜石へ来る」と約束している人もいる。人との付き合いが二十年、三十年先まで続くことが山の良いところだと思う。
地域には私のように資金難や後継者不足に悩む山林所有者が多い。手塚さんが色々なメディアに発信しているおかげで、森林組合も変わったな、と関心を寄せるようになった組合員も多いはずだ。森林組合には、困ったときに頼れる存在であり続けてもらいたい。 
 

釜援隊がゆく㉝最終データ

ページの先頭へ