【復興釜石新聞連載】#37 対話が育む「マチ」 行政、地域、歩道整備へ一体

※こちらの記事は2018年9月19日発刊の復興釜石新聞に掲載されたものです

 県と事業者が東部地区の歩道の現地確認会が行った日は、朝から雨が降っていた。排水不良で水たまりが出来た横断歩道、破損した点字ブロック。不具合箇所を確認する人々の表情は真剣だ。「市を訪れる人たちに、復興したまちの姿を見せたいのです。県の力を貸してください」という事業者の言葉に、県職員は「今日うかがった皆さまのご意見をもとに、補修内容を庁内で検討します」と約束した。

 東日本大震災の被災後、大渡地域の歩道には不具合が生じていた。しかし、津波復興拠点整備事業の指定地域外となり、近隣地域の歩道整備が進むなか復興事業による補修がされていなかった。
 釜石駅から中心市街地に位置する大渡地域の外観は、釜石全体の印象に関わる。同地域の事業者たちは、2017年12月と2018年2月に大渡の歩道の全面補修を求める要望書を県に提出したが、歩道としての機能は維持されているので、必要な対策については引き続き検討すると回答を得ていた。

 東部地区事業者協議会の設立に際し、議題にあがったのがこれらハード整備の話題である。二宮雄岳隊員は、官民のコーディネーターとしての見解を協議会役員に伝えた。「これからのまちづくりは、地域側もある程度の負担をしていただかなくてはなりません。皆さんがその覚悟をお示しすれば、行政もより積極的に協働を進めてくれるはずです」
 実際に、協議会の発足などの事業者の活動をうけ、市も東部地区に新たな街路灯などの照明設備を設置するべく庁内調整を図っているという。役員たちは各地域の会員と話し合い、設備の維持費を年会費から捻出すると合意した。
 このような事業者と市の取り組みを、県にも正確に伝えなければ、と釜援隊は考えた。大渡地域の歩道整備について県の職員に再度かけあう、と協議会が決めた2018年3月、二宮隊員は県に関係者との対話の場ーー意見交換会と現地確認会ーーを提案。花坂康志隊員は、大渡地域の町内会や東部地区の事業者を訪問し、参加をよびかけた。
 2018年6月4日には、そうして、市職員と地域住民、県職員の意見交換会が開催された。県職員は現地状況写真を示しながら住民から意見を集約。市職員からは、大渡地域を含む東部地区の歩道への足元灯設置計画についての説明がなされた。
 翌週には実際に現地へ足を運び、意見交換会で出された不具合箇所を確認。歩道の様子は想像以上のものだったに違いない。そう二宮隊員が振り返るように、現地確認会は「通常のパトロールでは気づけない実態を知る機会」と県の担当者は感じた。

 2018年8月、県振興局は市の照明設備設置と連携しながら、大渡の歩道の全面補修を進める姿勢をしめした。
 官民連携が実現したと喜ぶ事業者も多い。「このままいけば、我々が望んできた官民連携のまちづくりに必ずなる」と話すのは、協議会会長の新里耕司さん。東部地区で旅館を営む多田知貴さんは、整備された歩道を用いた賑わいづくりに取り組まなければ、と決意を新たにしている。「良い意味で、既存の地域の垣根を超えられるようになった。釜石が生き残るために、事業者でスクラムを組みたい」

 震災から約七年半。様々な変化を経た東部地区は、持続可能なまちづくりに向け先陣を切った。協議会の活動で生まれる事業者同士の何気ない会話や、行政との率直な意見交換。それは東部地区の事業者が長年願ってきたものでもあった。
 来年には、東部地区の歩道に新たな灯がともり、釜石の「マチ」を訪れる人々を迎える。(釜援隊広報・佐野利恵)

■「声」 菅原大さん(33)東部地区事業者協議会役員(大渡地域担当幹事) 

 父親の会社の復興を手伝うため釜石に帰り、直面したのが「このまちで商売を続けられるか」という不安だった。自社は地域の事業者さんをお客様にしているので、まちの状況が経営に響く。何か対策を考えたくても、釜石には都会のようなスキルアップをするための場所や機会がない。
 だからこそ人とのつながりの大切だと思い、釜援隊が開催する研修や地域のイベントには積極的に参加してきた。その過程で出会った先輩事業者には「これからはまち全体を見て商売しなければ」と教えてもらった。競争するだけでなく、同じ方向をみて一つになる。新しい文化が釜石に生まれる時なのかもしれない。
 心配なのは人口の減少だ。ラグビーワールドカップ以降もどうやって人を呼ぶか…必要なのは多様な「学びの場」ではないだろうか。このまちにはいろいろな経験をしている人がいる。そういう人たちとの交流は、学生インターンや起業を志す人にとって釜石を訪れる理由になるのではないか。受け入れる事業者にとっても、視野が広がったり、採用につながったりとメリットはあるはずだ。
 様々な連携を進めるためにも、引き続き釜援隊のようなコーディネーターには居てほしいと思う。事業者は自社の経営が最優先であるし、行政は全体を見なければならず、住民同士も本音を言い合うことは難しい。皆が異なる方向を向くなかでバランスをとり、パイプ役になり、時には厳しく意見を言える第三者は、以前の釜石には居なかった。
 まずは協議会を活用し、事業者が地域や商店街の垣根を越えて協力する事例をつくりたい。いずれは会員たちが情報や意見を交換し、互いの商売繁盛につながるのが理想だ。コーディネーターの力を借りながらまちの人々が一丸となり、被災や人口減少のような課題を解決する。そんな、まちづくりの「釜石モデル」を構築し、発信していきたい。

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