担当隊員:遠藤眞世
エリア:平田地区/コミュニティ形成
目指すビジョン: 釜石のまちづくりに関わる
東日本大震災の津波被災地区である平田地区では、これまで3名の釜援隊隊員がコミュニティ形成を支援してきました。
2013年9月、釜援隊として最初に平田地区で活動を始めたのは、第2期の加藤愛隊員です。まちなかにはまだ震災の爪痕が色濃く残る時期に、仮設住宅のお茶っこサロンに参加して被災者の方からお話を伺い、ヨソ者である「釜援隊」の名前を地域の方々に覚えて頂くことにつとめました(写真1)。
被災地域と非浸水地域の両方がある平田地区では、ハードの復旧と同時に、住民の交流の場づくりが急務となっていました。一方、まちの人が集まる場となっていた地域のお祭りは、復興工事の影響でしばらく開催が出来なくなっていたり、仮設住宅の建設により子どもたちが集まって遊べる場所も少なくなったり、人のつながりを強める工夫が必要でした。
加藤隊員は地域の皆さんに寄り添いながら、一人でも多くの方が参加できる場を作ることに奔走します。地域の支援者と一緒にイベントを企画し、仮設住宅のお宅を一軒ずつ回って参加を促し、地域の皆さんと一緒に歩みを進めたことで次第に周りの笑顔が増えていったといいます。
その約1年後に、二宮雄岳隊員(第3期)が活動を引継ぎます(写真2)。
2014年当時は、市内で初めて建てられた県営災害公営住宅へ、市内外から被災者の方が入居してくる時期でした。新しい環境で、初めてであった人たちが、一緒に生活していくのは簡単なことではありません。そのためには、住民の皆さんが自ら運営し、日常的な課題を共有・解決する自治組織が不可欠でした。
二宮隊員は、公営住宅の住民さんの困りごとを全戸訪問して聞いて歩くとともに、行政や他の支援団体のつなぎ役となって協議を重ね、住民主体の課題解決を支援者が連携してサポートする仕組みをつくろうと提案します。官民の支援者・住民の皆さんが一丸となって取り組んだことで、2015年5月には住民発意による災害公営住宅自治会が設立。その過程は「災害(復興)公営住宅の自治会形成におけるモデル」として、以降に続く他地域での自治会形成支援に応用されています。
前任の隊員たちが築いた平田地区の皆さんとの信頼関係をもとに、まちの可能性をさらに広げているのが、第5期の遠藤眞世隊員です(写真3)。
遠藤隊員は支援活動をはじめたばかりの頃から、「いつか支援員がいなくなったら、自治会や町内会など、地縁団体がまちを支える存在になる…しかし、今は若い世代の参加が少なく、十年後も活動が続いているかすら、不安な状態だ」との課題を感じていました。
そのとき思い出したのが、被災地にいる自身の親戚を励ました「子ども」の存在です。「地域の力を強化するには、子どもの存在が鍵になる」―特に、遊び場が少なくストレスを感じているだろう子どもたち、住みなれないマンション型の復興住宅で寂しさを感じながら生活している高齢者をつなげ、互いに支え合える仕組みを作れないかと考えました。
「平田地区の問題を同時に解決できる、異世代間交流の場をつくりましょう。」遠藤隊員は、生活応援センター、教育委員会、市内の復興支援団体を集め、文部科学省が推進する「放課後子供教室事業」を活用した子どもの居場所づくりを提案します。
そうして2015年10月より、平田地区災害公営住宅の集会所で「放課後こども教室平田MOSICA」が開かれることになりました。毎週木曜日の集会所には、地域の子どもたちだけでなく、災害公営住宅に住む高齢者もしばしば訪れます。子どもの迎えに来るお母さんたちには、地域活動に関心をもつきっかけともなっているようです。
ゆくゆくは地域の方々で、「平田MOSICA」を運営し、さまざまな世代が互いに見守り合える地域へとなってほしい。そんな日を目指して、クリスマスやハロウィンなどでは、多世代交流のきっかけとなるイベントも定期的に企画しています。
コミュニティ形成支援とは、地域の方々が取組の必要性をご理解下さり、積極的なご協力を下さるからこそ可能なもの。釜援隊は、3名の隊員で想いのバトンを引き継ぎながら、平田地区の皆さん共に歩んできました。
釜援隊と、地域の皆さんが一緒に進める新しいまちづくりは、これからも続きます。
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平田地区生活応援センター
遠藤眞世
りあちゃんのママさん
平田MOSICAには、始まってからほぼ毎週子供と一緒に来ています。私は今災害公営住宅に住んでいますが、同じ棟内の住民さんは高齢の方が多く、自分と近い年齢の方とあまり会いません。 でもここに来ると、若いお母さんや、女性スタッフの皆さんとお喋りできて、楽しいです。子育ての話から、ちょっとした愚痴まで、色々な話を聞いてもらっています。
地域の「子育て支援センター」という、親子で自由に集まって交流できる施設にも行きたいとは思っているんですが、私の家から遠いんですよね。バスを乗り継がないといけないんです。なので、りあが今よりも小さくて、チャイルドシートに乗れなかったときは、何処にも行けませんでした。うちみたいに小さなお子さんがいるお母さんには、災害公営住宅集会場内にこういう場所があると助かるんじゃないかな。
何より、りあがここに来るととても元気になるのが嬉しいです。MOSICAでは、小学生の子たちがたくさん遊びに来ていますが、自然とうちの子の面倒も見てくれます。一緒においかけっこしたり、お菓子を食べたり。「たくさん遊んでもらえてよかったね」っていつも言っています。 お兄さんお姉さんが出来たみたいですね。
一番の思い出は、ハロウィンイベントです。小学生の子たちと一緒に、災害公営住宅内のおばあさんたちの家をまわりましたよね。うちの子はまだ小さくて、皆の後ろをついてまわるだけでしたけれど、もらったお菓子をとても嬉しそうに握りしめていて、行って良かったなぁと思いました。 これからも、遠藤さんの開くイベントを、楽しみにしています。
震災当時、釜石で暮らす祖父母の安否がわからず不安でいっぱいの家族を救ったのは生まれて間もない甥っ子の存在でした。その時、子どもの持つ癒しやポジティブなパワーはきっと皆を元気にしてくれると感じた気持ちが、放課後子ども教室の構想へ結びついたのだと思います。
平田MOSICAでは「子ども達が安全にのびのびと遊べる場所作り」、親子対象のイベント等をきっかけとした「保護者の方の地域行事への参加の促進」、「地域の高齢者との世代を超えた交流を生み出す」ことを目標としています。この活動が同じ地域に暮らしながらも接点のない異世代の方たちを結ぶきっかけとなり、地域活動の活性化や住民間での支え合いに繋がることを願っています。
MOSICAに遊びに来る子ども達はいつも元気いっぱいで外遊びが大好きです。「ちゃっけえのがちょこちょこって走ってかわいいごと」「子どもがいると明るくていいねぇ」と言いながら、ベランダで子どもが遊ぶ様子を見ているお年寄りの笑顔もまた、子どもに負けず劣らずキラキラしています。 これからもたくさんの住民さんの笑顔が見られるような活動をしていきたいと思っています。